金色の月

母と台所に立つ。祖父の家の台所だ。大根。白菜。人参。蓮根。牛蒡。里芋。長葱。蒟蒻。木綿豆腐。豚肉。二人でそこらじゅうのものを次から次へと切って、大きな鍋に放り込む。その間に、祖父が秋刀魚を焼き、大根をおろす。鍋を煮ている間に秋刀魚が焼き上がったので、先にそちらを一匹まるごと食べてしまう。内臓の苦味が乙だ。鍋が煮えたところで、たっぷり味噌を溶かし、大きな椀によそう。もう一匹の秋刀魚と醤油のかかった大根おろし、湯気の立つなみなみと注がれた豚汁。祖父と母のグラスにビールを注ぎ、じぶんのグラスにも注ぎ、乾杯をする。ビールを流し込むと、舌の上やくちびるの端で、小さな泡がぱちぱちとはじける。ぐっとくる。この間二十歳になったばかりの私は、ビールが苦手だと思っていたが、慣れるのは意外に早かったらしい。もうすぐ米寿になる祖父と一緒に食卓を囲んで、酒を飲んでいる。祖父が笑うとき、いつも一瞬だけ、時間を止めてしまう。この目が勝手にシャッターを切るのだ。祖父の笑った顔はとってもチャーミングで、これを収めておけたらどんなに良いだろうと思う。もしかしたら、じぶんの笑った顔に似ているかもしれない、なんて。妙にあたたかく、ふと平衡感覚がなくなるようだった。胸の底がすこしだけ下に引っ張られた。祖父は湯を沸かし、酒をぬる燗にしてくれた。濃い匂いが目にくる。もう秋だから、と祖父は言った。夕方の日差しの色をしたビールも、人肌にあたためられたぬる燗も、この食卓につきづきしかった。ほろ酔いでまた台所に立ち、すべての皿を母と洗い、拭き、片付ける。帰り支度をする私たちに、祖父は「柿あるよ」と笑った。私も笑って「食べる」と言った。祖父の節くれだった手が、器用に柿の実に線を入れ、なめらかな皮を剥いていく。四つに割った柿のうち二つを、いつも私にくれるのだ。「柿は酔いをさますんだよ」と微笑んでくれる。すっかり夜までが深い秋の色をして、月明かりでさえも眩しかった。

永井美智

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