スタンドアップ・シスター

 まだ夏の余韻を残した九月某日。
 「じゃあ、行ってくるね」
 ちょっとコンビニ行ってくるね、みたいな軽い挨拶を残して、姉は我が家を後にした。結婚を控えた恋人と一緒に暮らすのだという。おしゃべりな姉が出ていくと、家のなかが途端にしんとなった。
 そもそも両親は結婚前の同棲には反対で、今日に至るまでにずいぶんと揉めた。そのとき母が呟いた「もう家族みんなで暮らすのは最後なのに」という言葉が私にはやけに印象的で、『子どもが大人になる』という自然の摂理に言葉にならない遣る瀬無さのような感情が湧いたのを覚えている。
 夜、自室のど真ん中に布団を敷いて眠る。長いこと姉と共同生活を送っていた、六畳一間の和室。大量の靴と鞄、アクセサリーの山が無くなって、ぽっかりとした空間だけが残った。夜中に聞こえない歯ぎしりの音。ここは今日から、一人部屋になった。大人にはなりたくなかった。
 親に隠れてタバコを吸って、いつの間にかコーヒーはブラック、レモンサワーが好きなこと。母は、あくまで母であろうとした。
 いつまでたっても抜けない癖。作りすぎてしまう味噌汁、餃子、カレー。
 私たちは、ついこの間まで四人家族だった。
 私は母の娘で、姉の妹で、だからまだまだ子どもなんだと思っていたのに、いつの間にか大人になってしまったらしい。それは唐突な理不尽を突きつけられたような、もしくはずっと前からこんな日が来ることを分かっていたような、不思議な感覚だった。

相澤 美沙音

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